INDEX

    プラスチック業界が取り組む環境問題

     私たちの生活を豊かに彩ってくれるプラスチックは、戦後から急速に発展し、わずか数十年で現代社会において欠かせない素材となりました。ですが生活が便利になる一方で、地球環境への影響も深刻さを増しています。2015年には国連でより良い未来を築くための持続可能な17の開発目標(SDGs)が採択されました。また、地球温暖化問題に関わる温室効果ガス排出量削減を目指す2050年カーボンニュートラルに向けても、世界中で様々な対策を打ち出しています。

     化石燃料である石油が原料となるプラスチックはその製造や廃棄の過程で二酸化炭素が排出されるため、カーボンニュートラルへの対策はプラスチック業界全体で取り組む課題となっています。そこで誕生したのが環境配慮型のプラスチックです。

    環境配慮型のプラスチックの種類

     環境配慮型のプラスチックは大別すると、植物由来の原料を使用したバイオプラスチックと、PCR(Post Consumer Recycled )材やPIR(Post Industrial Recycled )材を使用するリサイクル樹脂に分かれます。
    現在注目度もかなり高まっているリサイクル樹脂については、改めて別の機会に詳しく紹介するとして、ここではバイオプラスチックに焦点を当てたいと思います。

     バイオプラスチックとは、主に植物などの再生可能な天然資源を原料とした非生分解性のバイオマスプラスチックと、微生物等の働きによって最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックの総称です。バイオマスプラスチックにはその原料が100%天然由来の全面的バイオマス原料プラスチックと、原料の10~数10%を天然由来とした部分的バイオマス原料プラスチックがあります。

     現状、非生分解性の全面的バイオマスプラスチックは、バイオPEとバイオPA11、バイオPA1010しかありません。石油由来のPEはレジ袋などに使用されているので、これをバイオPEに置き換える事も増えています。一方で石油由来の原料と混合して作られる部分的バイオマスプラスチックはさらに種類が増え、代表的なものにバイオPETやバイオPP、バイオPC、バイオPUといった熱可塑性樹脂だけでなく、バイオフェノール樹脂やバイオエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂もあります。石油原料との混合だけに、従来のプラスチックと耐久性や強度が同等レベルのものもあり、より汎用性の高いものになっています。

     生分解性プラスチックで100%天然由来の原料で作られている代表的なプラスチックはPLA(ポリ乳酸)でしょう。カトラリーや持ち帰り用のコンテナ等日用品を中心に、PLAを使用するメーカーも急増しています。他にもPHA(ポリヒドロキシアルカン酸)などが100%天然由来原料の生分解性プラスチックです。また、部分的バイオマスプラスチックの中にもバイオPBSやバイオPBSTのように生分解性の特性を持ったものもあります。

     日本のメーカーでは30年ほど前からバイオプラスチックの研究・開発が進められてきましたが、特に生分解性プラスチックは海洋プラスチック問題の改善にも繋がるとして大きな期待が寄せられています。

    バイオマスプラスチックの原料とは?

     バイオプラスチックの原料は多岐に渡ります。代表的なものにはトウモロコシやサツマイモ、ジャガイモやサトウキビなどから採られるでんぷん(=糖質)、大豆や菜種などの植物油から採られる油脂などがあります。米どころの日本では、お米のでんぷんを利用したライスレジンも注目を集めています。
     
     その他にも、木材から採られるセルロースを原料としたウッドレジンや、海洋植物を原料とする海藻プラスチック、貝殻に含まれる炭酸カルシウムを原料とした生分解性プラスチックや、エビやカニなどの甲殻類の殻に含まれるキトサンを原料とするバイオマスプラスチックなど、意外なものから次々と新しいプラスチックが誕生しています。まだまだ発展途上の分野だけに、今後も思いもかけないものからプラスチックが作られるかもしれません。

    樹脂・プラスチックの素材データをsotasデータベースで見る >>>

    バイオプラスチックのメリット&デメリット

     バイオプラスチックの主な原料は植物です。植物は成長過程で光合成によって二酸化炭素を吸収するため、プラスチックの製造においても自然と二酸化炭素を削減する事になります。こうしたカーボンニュートラルへの貢献はもちろん、植物以外の原料にしても、自然界に存在するものを利用するため、廃棄問題の改善や、海洋プラスチックゴミへの対策としても有効です。
     
     その反面、全面的バイオマスプラスチックの種類が少ない事からも推測できる通り、品質面ではまだまだ従来のプラスチックの方が高いものが多いのが実情です。特に生分解性プラスチックにおいては、微生物によって分解されるという特性が、強度や耐久性の弱さに繋がってしまう事は否めません。コスト面でも大量生産可能な従来のプラスチックに較べてどうしても割高になってしまいます。また、現状ではバイオマスプラスチックは分別がしにくく、生分解性プラスチックにしても、その分解速度は様々であり、リサイクルシステムが確立していない点も、今後の課題となっています。

     もっとも、品質については現在進行形で研究が進んでいる分野なので、これからどんどん改善が見込まれますし、耐久性や強度についても、レジ袋や使い捨て容器など、短期的な使用が主目的の製品から導入していけば全く問題ありません。置き換え可能な部分から導入が進み、普及していけば、コスト面でも低下が期待できます。こうした環境配慮型のプラスチックが発展性の高い分野である事は間違いなく、サステナブルな社会の実現に向けて、確実な一歩になっているのです。